はじめまして、合同会社フヒトベ(以下、フヒトベ)代表社員の米原将磨(よねはらしょうま)と申し上げます。

さて、この度、私は2024年2月1日にフヒトベを設立いたしました。出版、電子メディア、動画配信のサービス提供をする会社です。

フヒトベは、漢字で書くと「史部」です。史部は、大和朝廷の官僚一族にあたった氏族や職のことを指します。史部の多くは史姓をもつ渡来系氏族で、その代表として、東漢直(やまとのあやのあたい) 西文首(かわちのふみのおびと) が挙げられます。このように、史部を渡来系氏族が担っていたのは、そうした氏族が中国大陸やその影響の強かった朝鮮半島にあった帝国の書記技術を有していたからです。そして、この中には歴史や神話を記録する行為も含まれています。

ところで、歴史を書くこと、それは今日ますます難しくなっていることです。しかし、歴史を紡ぐことは、私たちがお互いの世界でどのように生きているかを示すために欠かせないものです。多く人々がインターネットによって同じ時間を共有していると錯覚し、お互いの正しい歴史を一方的に押し付け合っているこの世界では相互理解のために歴史を紡ぐことはとても難しいことになってしまいました。とはいえ、もしもあなたが誰かを理解したいのであれば、その困難を乗り越えるために行動する必要があるのです。そこで、この困難な時代において、既存の人文知のネットワークでは立ち上げることのできない新しい文脈を紡ぎ、新たに歴史を継承するために、私はフヒトベを設立しました。

現在存在している人文知のネットワークは、人文系出版社と大学に所属する優れた研究者たちによって形作られています。ある書き手がそのネットワークのなかに入ることで、その書き手と、書き手が示す人文知はいわばネットワークの中に多様にあるコミュニティより制度的に認められます。それは、知の品質を保証し、歴史を未来に継承することができる素晴らしいものです。しかし、私はすでにあるいくつものコミュニティとは別の意志をもってしまいました。そのとき、コミュニティやそれがもつ制度、さらには継承されてきた偉大な歴史はほんの少し息苦しいものになります。そのとき、ひとはどうしても一歩外側に歩きだす必要があるのです。

フヒトベは、独立不羈ではありますが、孤独であるつもりはありません。フヒトベの扱う人文知とは、特定の領域の専門的で精確な知識のことだけではなく、オーラルヒストリー・小説・批評・エッセイ・詩・音楽・映像・美術を含む、より緩やかな文脈を作ります。かつて史部は官僚であり、その歴史書は権威そのものであり、その法律書は制度そのものでした。フヒトベもまた、小さく愚かな権威をまとい、コミュニティを形成してしまうために制度をまた新しく生みだすことを反省しつつ、それでも私の信じる人文知を次世代に継承するよう努力します。

(2022年5月21日記す 文責 米原将磨)